仏式葬儀で時々みられる不思議な風習の由来

仏教式の葬儀を行うと、宗派や地方、あるいは故人や遺族の信仰によってはある不思議な風習が行われることがあります。それは、僧侶が故人の遺体の髪を剃ったり切ったりするしぐさをすることです(納棺の際に行われる場合もあります)。これは、故人を形式上「出家者」とするための儀式です。仏式葬儀では一般に故人に戒名(浄土真宗では法名、日蓮宗では法号)を付けますが、これには「仏の弟子」つまり「僧侶」としての名前という意味があります。

そのため、形式上「髪を下ろす」という意味で髪を剃ったり切ったりするジェスチャーが行われることがあるわけです。落語の古典的な演目を聞くと、人が亡くなるネタが案外多いことに驚く方が少なくありませんが、そうした演目の中には「葬式(または納棺)の際に故人(男女共に)の髪を剃る」風習を前提とした描写のあるものが幾つかあります。また、江戸時代に書かれた本の中にもこの風習を前提とした記述があるものがあり、江戸時代には実際に故人の髪を剃る風習が一般的だった(少なくとも少数派ではなかった)ことがわかります。それが時代の変化によりジェスチャーのみになっていったというわけです。

この風習の由来は、仏式葬儀のルーツが禅宗の一派である曹洞宗の雲水(正式に一人立ちの僧侶になる前の禅宗の修行僧)が一人立ちの前に亡くなった際の葬式であることにあります。その際には修行僧である故人を形式上正式に一人立ちの僧になったとして弔うしきたりがありますが、それが一般の人々の葬式にも応用されたことが始まりです。なお、浄土真宗や日蓮宗では基本的にこの風習はありません。なぜなら、両宗派とも信仰の内容や方法、故人が死後に行くとされる他界のイメージこそ異なりますが、故人は形式上の出家をしなくても信仰によって既に救いが約束されているという教えがあるため、法名や法号以外の形式上の出家は不要とされるからです。

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